壮大な宇宙旅行の夢を乗せた「IKAROS」ソーラーセイルの制御にeT-Kernelが活躍【人工衛星システム】

JAXA 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構様



左から今回インタビューに協力して頂いた白澤様、高島准教授、船瀬様。


お話を伺った方

東京大学大学院宇宙航空研究開発機構(JAXA)
工学系研究科 航空宇宙工学専攻宇宙科学研究所 宇宙プラズマ研究系 准教授
博士課程博士(理学)
白澤 洋次 様 (写真左)高島 健 准教授 (写真中央)
  
宇宙航空研究開発機構(JAXA)
月・惑星探査プログラムグループ研究開発室 開発員
博士(工学)
船瀬 龍 様 (写真右)


ソーラーセイル実証機IKAROSに搭載。20メートルの太陽帆の制御などに活躍


太陽の「光圧」を帆に受けて推進力を得るという壮大なアイディアを現実のものにしようと、2010年5月21日に、ソーラーセイル(太陽帆)の小型実証衛星「IKAROS」が種子島宇宙センターから打ち上げられました。その半月後には、地球からおよそ770万キロ離れた宇宙空間で、差し渡し20メートルのソーラーセイル(正確には「ソーラー電力セイル」)の展開に成功。7月には太陽光圧による加速も確認され、世界初のソーラーセイルの実証実験は無事に第一歩を踏み出しました。

多くの夢が詰まったIKAROSで、ソーラーセイルをはじめとするさまざまな機器の制御を担っているのが、イーソルがT-Kernelをベースに独自に拡張・改良したリアルタイムOS「eT-Kernel」です。イーソルは、そのeT-Kernelに豊富なミドルウェアと開発ツール「eBinder」、そしてプロフェッショナルサービスを統合し、ソフトウェアプラットフォーム「eT-Kernelプラットフォーム」として提供しています。車載機器やコンシューマ機器をはじめする数多くの製品に搭載されてきた実績を誇ります。



小型ソーラー電力セイル実証機 「IKAROS」
(画像提供:JAXA様)



IKAROSでeT-Kernelを採用した経緯は、JAXA科学衛星のソフトウェア共通化への取り組みを開始した2005年にさかのぼります。JAXA(独立行政法人 宇宙航空研究開発機構)で宇宙粒子線を研究している高島健准教授は次のように語ります。「一昔前まではOSを使わずに衛星や探査機などに搭載する観測機器システムを設計していましたが、観測対象が複雑化してきたことや、ソフトウェア資産を再利用したいという狙いから、2005年頃に観測機器開発に対する考え方を転換し、ソフトウェアの共通基盤構築に向けて、OS採用を決定しました」。

高島准教授らがフリー版OSを含むさまざまなOSの比較・検討を行い、観測機器担当メーカの意見も含め、最終的に決めたのがeT-Kernelでした。「民生で多くの実績に裏付けられた信頼性の高さに加え、長期に亘ってメーカ保証とサポートが得られること、開発ツールの使いやすさ、宇宙機システムの限られたリソースでも動作する省メモリ性、といった点を検討しました。さらに、「国産」もキーワードで、トロンの後継であるT-Kernelが日本製であること、イーソルが国内メーカであることも ポイントでした。これらの要件をすべて満たしたのがイーソルのeT-Kernelでした」。


2年半という短期間で衛星開発を完了。eT-Kernelの信頼性と開発ツールの使いやすさが大きく貢献


この結果、eT-Kernelは、様々な宇宙機システムのソフトウェア共通化を目指す「SpaceCubeアーキテクチャ」のOSとして採用されます。IKAROSにはこのeT-Kernelを含むSpaceCubeアーキテクチャの技術が生かされたJAXA開発の制御コンピュータが搭載されました。

制御アプリケーションの開発を担当した船瀬龍様は、当時の模様を次のように語ります。「SpaceCubeアーキテクチャベースの制御コンピュータはソーラーセイルの展開や制御に関連する数台の観測機器を制御する役割を担っているのですが、eT-Kernelのおかげで機器のスケジューリングや割り込みの重複制御を気にすることなく、アプリケーションをスムーズに開発することができました」。

IKAROSは通常の科学衛星の半分程度に相当する2年半という短い期間で開発されました。船瀬様によると、eT-Kernelプラットフォームが短期開発に貢献したことは疑う余地がないといいます。

また、厚さわずか7.5μmというポリイミド薄膜製のソーラーセイルの製作と展開を担当した東京大学大学院博士課程の白澤洋次様は「当初はeT-Kernelについて何も知識がなかったのですが、開発ツールのeBinderがとても使いやすく、すぐに習熟できたことを覚えています」と語ります。そして、「ソーラーセイルの展開アプリケーションがeT-Kernel上で正しく動いて、セイルを広げたIKAROSの映像が遠隔カメラから届いたときには、言葉では表せない感動がありました」と述べるように、eT-Kernelは最初の役割を見事に果たしたのです。

実証実験は引き続き行われ、その成果は将来の惑星探査機の開発に生かされる予定です。


金星探査や水星探査でもeT-Kernelを採用。新たな発見と解明に期待が広がる


eT-Kernelは、JAXA科学衛星のプラットフォーム共通化構想を受けて、IKAROSと相乗りで打ち上げられた金星探査衛星「あかつき」にも搭載されました。eT-Kernelが制御するのは風速100メートルにも達する金星大気を観測する機器群です。あかつきは2010年12月に金星の楕円軌道に投入される予定であり、その観測データから、金星と同規模ながらまったく違う環境へと進化した地球の起源を含むさまざまな謎が解明されると期待されています。

これらのプロジェクトを振り返って、高島准教授は、「IKAROSやあかつきの開発では、eT-Kernelのポーティングや技術サポートも含めて、イーソルには臨機応変で柔軟な、さまざまなご協力をいただきました。宇宙開発を共同で成功させようという姿勢で、積極的に応援していただいたことに深く感謝しています」と述べています。

さらにeT-Kernelは、JAXAとESA(欧州宇宙機関)とが共同で打ち上げる水星探査衛星「ベピ・コロンボ」(水星磁気圏探査機:MMO)への搭載も決定しています。2014年の打ち上げに向けて開発が進められているところです。

このようにeT-Kernelは、高い信頼性や豊富な実績を背景に、日本の宇宙開発の一端を支えています。これからも遥か遠くで衛星機器の作動を見つめながら、宇宙が持つさまざまな神秘を私達に届けてくれるに違いありません。


ユーザプロフィール

JAXA 独立行政法人 宇宙航空研究開発機構

2003年10月に宇宙科学研究所(ISAS)、航空宇宙技術研究所(NAL)、宇宙開発事業団(NASDA)が1つになり誕生。宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまで一貫して行う機関として、宇宙航空に関わるさまざまな活動を行っている。

ユーザ商品

金星探査機 「あかつき」、小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」、
日欧共同水星探査「ベピ・コロンボ」(MMO:水星磁気圏探査衛星)



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