2009年6月5日
報道関係者各位
イーソル株式会社

T-Kernelベースソフトウェアプラットフォーム「eCROS」が採用された人工衛星が宇宙へ


~T-Kernelの人工衛星への搭載は世界初~

イーソル株式会社(本社:東京都中野区、代表取締役社長:澤田勉、以下イーソル)は、T-Kernelベースソフトウェアプラットフォーム「eCROS」が、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が今年1月23日に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」の、相乗り衛星「小型実証衛星1型」に搭載された超小型宇宙実験プラットフォーム「スペースワイヤ実証モジュール(SWIM)」に採用されたことを発表します。世界で初めて人工衛星搭載コンピュータのOSとしてT-Kernelが採用されました。イーソルは、eCROSの提供を通じて、SWIMの短期間・低コストでの開発と信頼性・品質の確保に寄与しました。eCROSは、将来打ち上げが予定されている複数の人工衛星にも採用される予定です。

eCROSは、T-Kernel拡張版「eT-Kernel」を中心に、開発ツール、各種ミドルウェア、プロフェッショナルサービスが統合化されたソフトウェアプラットフォームです。SWIMは、大学やベンチャー企業も参画し、共通のソフトウェアプラットフォームであるeCROSを活用して分担して効率的に開発されました。オープンソースのT-Kernelをベースに拡張と改良が加えられたeT-Kernelは、デバイスドライバや各種ミドルウェアの管理機能が備わっているため、人工衛星システム開発が未経験の開発者でも、下層のハードウェア管理の詳細を意識することなく、上位アプリケーション開発を行えました。また、eT-Kernelのアーキテクチャの活用により、ミドルウェアやデバイスドライバの共通化を考慮した、流用性の高いシステム設計が実現できました。さらに、T-Kernelベースのリアルタイムシステム開発に特化したeCROSの開発ツールの使用により、信頼性の高い人工衛星システムの短期間での開発を可能にしました。

人工衛星は、今後ますます多岐にわたる役割が期待されています。国や専門機関だけではなく、さまざまな事業を目指す企業などによって人工衛星の活用が進むことが見込まれています。多種多様な目的と機能を持つ人工衛星の開発規模が増大するにつれ、高い信頼性を確保しながらいかに短期間・低コストで開発するか、また複雑で時間がかかる試験をいかに簡素化するか、が大きな課題になってきています。こうした課題を克服するために、JAXAを中心とする産官学連携のもと人工衛星システムのアーキテクチャ研究が進められていますが、そのひとつの成果が宇宙機システム搭載コンピュータのための「Space Cubeアーキテクチャ」です。Space Cubeアーキテクチャは、「電源コンセントに差し込むような容易さ」で人工衛星にさまざまな機器を接続できることを目指して日米欧露などの各国宇宙機関やメーカーが規格の標準化や管理を行っている次世代衛星バス通信規格「SpaceWire」がインターフェースとして組み込まれています。Space Cubeアーキテクチャに従った標準コンピュータを採用することで小型衛星から大型衛星に共通して適用でき、スケーラブルで高い柔軟性を持つネットワークを衛星内に展開することができます。SWIMは、このSpace Cubeアーキテクチャを具体化したコンピュータのSpaceCube2(*)を内蔵しており、SpaceWireを用いたコンピュータの宇宙実証を目的としています。今後宇宙実証を経て、Space Cubeアーキテクチャを有するコンピュータやSpaceWireでつながったネットワークアーキテクチャを標準プラットフォームとして、小型科学衛星(2011年打ち上げ予定)、さらに次期国際X線天文衛星(2013年打ち上げ予定)、欧州宇宙機関との日欧共同プロジェクトである水星磁気圏探査機(2014年打ち上げ予定)などに採用されていく予定です。

* 参考:2006年6月20日発表「次世代の宇宙機器開発用プラットフォーム「SpaceCube Ⅱ」に、イーソルのT-Kernelとソフトウェア開発環境が標準採用 」
http://www.esol.co.jp/company/press/emb_press060620.html

▽宇宙航空研究開発機構(JAXA)ウェブサイト: http://www.jaxa.jp/
▽日本スペースワイヤユーザー会ウェブサイト: http://www.astro.isas.jaxa.jp/SpaceWire/users/


宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究本部 高島 健 准教授のコメント
「μITRON仕様のリアルタイムOSは、人工衛星システムのさまざまな制御用OSとして定着しています。今回T-Kernelを選択したのは、μITRONのソフトウェア資産やエンジニアリソース、知識やノウハウの流用が容易な点に加え、T-Kernelの設計方針であるミドルウェアやデバイスドライバの共通化を目指すアーキテクチャにより、システム開発の時間面、コスト面での効率化が見込めたためです。eCROSはeT-Kernelに加えて、開発初心者でも使いやすい開発ツールや、細かなニーズに合ったプロフェッショナルサービスがプラットフォームとして整備されていたため、さらに効率的な開発を実現できました。」

イーソル株式会社 常務取締役エンベデッドプロダクツ事業部長 上山 伸幸 のコメント
「T-Kernel初の人工衛星搭載の機会に、eT-KernelをコアとするeCROSを選択していただき、大変光栄です。人工衛星の分野でも、その開発規模の増大化にともない、高信頼性を維持しつつ開発の効率化を図ることが課題となっていますが、それを解決するスケーラブルな共通プラットフォーム開発の発展に少しでも貢献できたとすれば幸いです。品質と開発の効率化を両立できる、より優れた組込みソフトウェアプラットフォームの開発を引き続き継続し、今後も引き続き人工衛星開発の一助となれるよう、取り組んでまいります。」


写真提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)
SDS-1軌道上イメージ図
HN-PP150
SpaceCube2
HN-PP150



補足資料

■eT-Kernelについて
eT-Kernelは、リアルタイムOSベンダーであるイーソルがこれまでμITRONで培ってきたノウハウと技術をもとにして、T-Engineフォーラムが配布するオープンソースのT-Kernelに性能面・機能面で改良・拡張を加えたT-Kernelの拡張版です。システム起動時間の大幅短縮、高速な割込み応答性、タスク切り替えの高速化、コンフィギュレーションによるメモリフットプリント調整機能、ハードウェア依存部のレイヤー化、モジュール化による移植性の向上などを実現しました。eT-Kernelには、さまざまなシステム規模と用途をカバーするスケーラブルな4つのプロファイルがあります。μITRONと近い構成を持つμITRONからの移行に最適な「eT-Kernel/Compact」、eT-Kernel/CompactをベースにT-Engine標準のデバイスドライバが付属した「eT-Kernel/Standard」、メモリ保護機能とプロセスモデルをサポートする大規模開発に最適な「eT-Kernel/Extended」、およびPOSIXに準拠した「eT-Kernel/POSIX」です。それぞれのプロファイル上で構築したソフトウェアを共通化したプロダクトライン型ソフトウェア開発も容易です。

「eT-Kernel」詳細



■eBinderについて
eBinderは、T-Kernel、μITRONをコアとするシステム向けの開発スイートです。従来のT-Kernel/μITRONソフトウェア開発に不足していた、優れた開発環境を提供します。リアルタイムOSを使ったシステム開発のためにゼロから設計された開発ツール・機能群を使うことで、リアルタイムシステム特有の問題を容易に解決でき、リアルタイムOSを最大限に活用できます。eBinderは、C/C++コンパイラを含む各種開発ツール群と、あらゆる組込みソフトウェアのベースとなるターゲットプラットフォームを構成するモジュール群があわせて提供されます。

「eBinder」詳細



■イーソル株式会社と「eCROS」について
イーソル株式会社は1975年の創業以来、組込みソフトウェア業界、及び流通・物流業界で実績を重ねてきました。イーソルは、「Inside Solution」をブランドスローガンに、ユビキタス社会を内側から支える技術者集団として、お客様の満足を第一に、開発、販売からサポートまで一貫したサービス、トータルソリューションを提供します。
エンベデッドプロダクツ事業部は、組込みシステム開発向けに、「開発環境」、 「リアルタイムOS」、「ミドルウェア」、そして「プロフェッショナルサービス」までを含むソフトウェアプラットフォーム『eCROS』(eSOL Component Real-time OS platform/イークロス)をご提供しています。多くの実績に裏打ちされた高い信頼性を持つeCROSの導入により、「高い品質」と「開発の効率化」の両立を実現します。ソフトウェア製品のご提供だけでなく、ニーズに合わせたプロフェッショナルサービスをあわせてご提供することで、開発者の皆様がアプリケーション開発に専念できる環境を作ります。eCROSを構成するリアルタイムOSには、システムの規模と用途にあわせた3つのプロファイルを持つT-Kernel拡張版「eT-Kernel」と、組込み分野で多くの実績があるμITRON4.0仕様に準拠したリアルタイムOS「PrKERNELv4」を揃えています。開発環境としては、T-Kernel/μITRONベースシステム開発スイート「eBinder」を用意しています。またミドルウェアには、ネットワーク/ファイルシステム/USB/グラフィックスなどの幅広いラインアップを揃えています。
日本市場のみならず、北米、ヨーロッパ、アジア市場向けに製品・サービスの販売活動を広げています。



*eBinder、eParts、PrKERNEL、PrKERNELv4、PrFILE、PrCONNECT、PictDirectは
イーソル株式会社の登録商標です。
*eCROS、eT-Kernel、PrHTTPD、PrMAIL、PrSNMP、PrUSB、PrPCCARD、PrMTPは
イーソル株式会社の商標です。
*TRON は"The Real-time Operating system Nucleus" の略称です。
*ITRON は "Industrial TRON" の略称です。
*μITRON は "Micro Industrial TRON" の略称です。
*TRON, ITRON, T-Engine, T-Kernel はコンピュータの仕様に対する名称であり、
特定の商品ないしは商品群を指すものではありません。
*記載された社名および製品名は各社の商標または登録商標です。