2020年より日本で本格的に開始された「5G」により、デジタルデータの流通量は今後さらに増大すると見込まれています(①)。2020年には、IoTデバイスのデジタルデータの活用量は2015年に比べて4~7倍と増えています(②)。2030年代に向けて、先進諸国では5Gの「次」に焦点を当てた「Beyond 5G」への取り組みが始まっており、日本でも「Beyond 5G推進戦略」が2020年夏に策定されました。


モバイル経由でのデータ通信量の推移(出典:総務省)
出典:総務省「令和2年版情報通信白書のポイント」(Ericsson“Ericsson Mobility Visualizer”を基に総務省が作成)
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企業が分析に活用しているデータ(出典:総務省)
出典:総務省「令和2年版情報通信白書のポイント」
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上述のとおり、5G普及に伴い世界的にDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが、今後ますます加速して行くと見込まれています。様々なIoTデバイスで生成される膨大なデジタルデータを、適切なタイミングで効率的かつ安全に処理・運用することが求められる今、リアルタイムかつ負荷分散によるデータ処理が可能な「エッジコンピューティング」の重要性が増しています。


エッジコンピューティングとは

従来のIoTシステムでは、IoTデバイスで収集したデータを、インターネットを介してクラウドに送り、クラウドで集約・処理する仕組み(クラウドコンピューティング)が一般的でしたが、エッジコンピューティングでは、利用者に近いエリアのIoTデバイス(エッジデバイス)側で集約したデータを処理・管理し、必要なデータのみをクラウド側へ送信します。
下図のとおり、エッジコンピューティングはデータを分散処理する分散システムアーキテクチャの仕組みを取っています。

分散システムアーキテクチャ
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なぜエッジコンピューティングが必要とされるのか?

エッジデバイスの増加に伴い、扱うデータ量の増大化は避けて通れなくなっています。エッジデバイスで発生・収集したデータを全てクラウドに集約し、クラウド上で処理・分析し、その結果をエッジデバイスに戻す従来のクラウドコンピューティングでは、ネットワークトラフィックの負荷や通信コスト、リアルタイム性およびセキュリティの確保と言った面で課題があります。エッジコンピューティングは、前述のとおりエッジ側でデータを処理し必要なデータのみをクラウドに送るため、これらの課題を解決できます。エッジ側で分散してデータ処理を行うことにより、リアルタイムかつインターネットに低負荷なデータ処理を実現できることから、DXへの取り組みが進む昨今、エッジコンピューティングは不可欠なものとなりつつあります。

  DXの技術課題 エッジコンピューティングによる解
ネットワークトラフィックおよび通信コスト 自動運転を例にとると、自動運転では4TB/日のデータを生成すると試算(ドライバモニタリングは含まず)。こうした膨大な量のデータ送受信はネットワークに多大な負荷をかける。
また通信コスト面では、5Gで20倍の帯域になり、コスト効率も20倍改善したと仮定して計算しても、4TBのデータ通信費用は96万円/月かかる。
エッジ側でデータ処理を行い、必要なデータのみをクラウドに送るため、ネットワークへの負荷を軽減できる。
通信コスト面でも、送受信するデータが低減するためコストも軽減できる。
リアルタイム性 クラウドでデータ処理を行った結果をエッジデバイスに送るまでのレイテンシ(通信の遅延時間)の大きさの観点から、ミッションクリティカルなリアルタイム性の確保が求められるIoTシステムでは致命的な問題に繋がりかねない。 クラウドに接続せずエッジ側でデータ処理を行うため、低レイテンシを実現しリアルタイム性の確保を可能にする。

Expected case scenario
出典:https://www.researchgate.net/publication/320225452_Total_
Consumer_Power_Consumption_Forecast

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Autonomous car data vs. human data
出典:https://www.geonovum.nl/uploads/documents/Self-DrivingVehiclesReport.pdf
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エッジコンピューティングへの要求

自動車を始め、産業機器や医療機器など、様々な機器(エッジデバイス)でコンピューティングが用いられるようになり、機器のインテリジェント化が進んでいます。これらのインテリジェントシステムでは、従来の組込みシステムで求められるリアルタイム性や低消費電力の実現などに加え、クラウド側で行っていたような膨大なデータのエッジでの処理や、低レイテンシ、エッジ側でデータ処理を行う際の安全性の確保などが必要不可欠となります。さらに、従来の収集したデータをクラウドにアップする役割としてのエッジデバイスから、収集したデータの解析や判断を自律的にリアルタイムで行い、即時にアクチュエーションを行うインテリジェントなエッジデバイスに進化することが、今後のダイナミックなIoTでのエッジコンピューティングでは求められます。

高効率HPC(High Performance Computing)

従来クラウド側で行っていた高度なデータ処理をエッジ側で行うことが求められ、高度かつ高性能なハードウェアが必要となります。しかし、プロセッサ技術において周波数向上による性能向上は限界に達していると言われています(ポラックの法則)。これらの解として、以下が有効だと考えられています。

ヘテロジニアスコンピューティング
CPU、DSP、DFP(Data Flow Processor)、FGPA、GPU、特定のアルゴリズムの回路など、計算の種類に応じて最高のパフォーマンス/電力効率を実現できるプロセッサは異なります。
異なるアーキテクチャを効果的に利用することが高効率HPCには求められます。

マルチ・メニーコア
高性能を実現するには、数十から数百以上のプロセッサを一つのハードウェアとして実現し、演算をこれら多数のプロセッサで同時並列に実行することで高性能を実現します。

高い性能と電力効率を実現するには、マルチ・メニーコア技術と、異なるプロセッサアーキテクチャを組み合わせた、ヘテロジニアス・マルチ・メニーコアコンピューティングが最適だと考えられます。

ソフトウェアの観点からヘテロジニアスコンピューティングを考えると、シングルコア時代に設計されたシングルカーネルOSアーキテクチャでは、異なるプロセッサアーキテクチャを統合的に扱えず、性能を発揮できません。ヘテロジニアス・マルチ・メニーコアコンピューティングによる高効率HPCの実現には、OS自体が高い並列性を持ち、ヘテロジニアスコンピューティング向けに設計された、各プロセッサ毎に独立したマイクロカーネルを配する分散型マイクロカーネル(マルチカーネル)アーキテクチャを持つOSが必要です。

Safety and Security

様々な機能をエッジに集約し、エッジ側でデータ処理を行うことから、安全性の確保も求められています。あるモジュールで問題が発生した場合でも、他のモジュールは正常に動作し、システム全体としては安全に運用できるよう、分離された構成を取る必要があります。OSの構造レベルでの分離による安全性の確保が必要です。
機能安全やハッキング対策はもちろん、複数の機能を集約する、また複数のOSを一つのシステムに載せると言った観点から、以下の機能が重要になってきます。

メモリ分離
複数の機能を一つのシステムで稼働する際に、お互いの機能が干渉しないようにメモリ空間を分離する必要があります。各モジュールが使用するメモリを分離することで、あるモジュールの異常動作が他のモジュールに波及することを防ぎます。

時間保護
各モジュールがCPUを利用できる時間の上限を設定することで、異常動作したプログラムにより他のプログラムを使用できなくなる状態を防ぎます。

リアルタイム解析・判断および即時アクチュエーション

今後のダイナミックなIoTシステムにおいては、クラウドに収集データを上げる収集機器としてのデバイスから、収集データを自律的に解析・判断しリアルタイムかつ安全にアクチュエーションを行うインテリジェントなデバイスに進化・変容することが求められています。

車載システムを例に、ソフトウェアの観点からこの要求を満たすリアルタイムOSを考えると、従来型の制御系ECUを想定しハードリアルタイムが求められるシステムでは、真の並列処理を実現し、AUTOSAR Classic Platformも動作させ、ヘテロジニアスマルチコアを使用したアプリケーションでその性能および隔離安全を最大限に引き出せる能力を持つリアルタイムOSでありながら、SOA(Service Oriented Architecture)ベースでROSやAUTOSAR Adaptive Platformとの親和性が高いPOSIX仕様に準拠したリアルタイムOSを使うことにより、リアルタイム解析・判断および即時アクチュエーションを実現できます。


エッジコンピューティングにおける負荷分散やセパレーションによる、安全・安心の確保を実現するイーソルのRTOSソフトウェアプラットフォーム

IoTシステムにおいてシステム全体の安全・安心を担保し、高機能化・インテリジェント化に対応することが求められる昨今、特にIoTエッジ側の組込み機器は、どのような機器を利用しても、リアルタイム性を損なうことなく安全・安心で高機能なシステムを構築できる、信頼性・拡張性の高いプラットフォームを構築する必要があります。

イーソルのスケーラブルRTOS「eMCOS」は、従来のリアルタイムOSとはまったく異なるアーキテクチャ「分散型マイクロカーネルアーキテクチャ 1」と、独自のスケジューリング技術「セミプライオリティベーススケジューリング」(特許取得)により、高いスループットと組込みシステムで不可欠なリアルタイム性を両立しています。シングルコアプロセッサからマルチ・メニーコアプロセッサ、オンチップフラッシュマイコンやGPU、FPGAなど、コア数に加えアーキテクチャが異なるヘテロジニアスなハードウェア構成をサポートしています。

eMCOSにより、リアルタイム性と安全性を確保しながら、高効率な真の並列処理や、信頼性の異なるアプリケーションの完全な分離など、エッジコンピューティングへの要求を満たし、DX時代の分散コンピューティングを安心・安全に実現できます。

エッジコンピューティングにおいてeMCOSを利用するメリットとして、以下を挙げることができます。

  1. 高いリアルタイム性能と、OS自身の高い並列性により高いスループットを実現
  2. POSIX仕様に準拠し、汎用OSと同様のマルチプロセス環境を提供、汎用OS向け資産の再利用が可能
  3. ROSやAUTOSARなどのプラットフォームをすぐに利用可能
  4. 分散マイクロカーネルアーキテクチャによる高いスケーラビリティ
  5. 特定コアのカーネルの異常が他のコアのカーネルに伝播せず高い信頼性を実現

eMCOSについての詳細は以下をご覧ください。
https://www.esol.co.jp/embedded/emcos.html


最後に

世界的な5Gの普及に伴うDX推進への取り組みが加速することにより、扱うデジタルデータ量の膨大化は避けて通れなくなっています。インターネットへの負荷を抑えつつ、収集したデータの解析・判断等を自律的にリアルタイムで行い、安全・安心を担保しながら即時にアクチュエーションを行えるインテリジェントなエッジデバイスへの進化が、ダイナミックなIoTでのエッジコンピューティングでは重要なファクターとなります。これらエッジコンピューティングへの要求を満たすeMCOSは、DX時代の安心・安全な分散コンピューティングの実現に貢献していきます。



1 学術的にはマルチカーネルとも呼ばれる

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